​ナマズ親父と出会ったころは
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 このおじさんは、Bob“Catfish”Hodge「キャットフィッシュ・ホッジ」と呼ばれている。僕は身長180センチ、靴を履いていると182~183センチはあるだろうに、このおじさんは楽に僕を楽に上回る巨漢である。我々の作ったギターを使っているアーティストが日本に公演に来たというので表敬訪問をしにいったわけだ。

 

 この頃、僕の手掛けたエレアコの国内販売は順調に軌道に乗っていた。エレアコの機種編成は、念願のオリジナルシェイプを完成させ、既にそのシェイプが販売の主流を占めていた。宣伝という意味では、世界的に有名なアーティスト達が使っている事のアピールは充分に行き渡り、あえて(失礼ながら)このクラスの知名度のアーティストの招きで京都まで会いに行くのには、ちょっと費用対効果が気になった記憶がある。

 この頃我々はエレアコの一定の成果とブランドの浸透をベースに、完全なアコースティックギターのラインナップを発表しようとしていた。言わばアコースティックギターブランドとして、より地位を固めるための最後の仕上げに取り掛かっていた時期だ。

 エレアコではなく、アコースティックギターの一定のラインナップを揃えるというのは、プロレスで言うところのストロングスタイルである。凶器(ピックアップ)や、奇襲(プリアンプ)の力を一切借りないで、生の音で勝負するのだ。その時のラインナップ作りの考え方はざっとこんな具合だった。

 

 まずシリーズ構成の大分類を決める。最初に2万円から5万円までくらいのオール合板モデルのドレッドノートシリーズ。次にこれと同じスペックのフォークタイプ(OOOタイプ)。そしてそれらの上位シリーズとしての表板単板シリーズ、さらに上位のオール単板シリーズである。更には、これらの上位シリーズの中から区切りのいい価格帯のところで、12弦モデルを数機種用意する。これで総数20~30機種のラインナップが出揃うことになる。

 こうやってラインナップを作っていって、実際に写真撮影用に全機種の試作を作ってみて一堂に弾き比べると、合板、トップ単板、オール単板のギターの音色の違いは歴然としたのもだ。同じ弦長、同じ大きさ、同じ構造で作ってあっても音の差は歴然としており、弾き心地まで違ってしまう。なぜ弾き心地が違うかと言うと、鳴らないギターを無理に鳴らそうと力むと、弾き難く感じてしまうのだ。

 そして最後にブランド全体の象徴となる最上級機種(30万円か、50万円位)の機種を用意する。この最上位機種は30万円でも50万円でもかまわない。周囲の競合環境を見渡して、国産ブランド内における相対的地位を考えながらスペックを設定するだけのことだ。ハッキリ言って、製作は写真撮影用に作ったら、それが最初で最後になる場合だって大いにあり得る。

 ギターの世界においては、アメリカ製と日本製のランク付けは判りやすい。価格帯にはかなり開きがあるが、使っている材料が一緒でも、ちゃんと弾き心地や、音にハッキリとそれだけの差が出てくれる。もっとも、アメリカでもたいした事の無いギターもあるが、市場もうまく機能していて、そういったものは、わざわざ日本に入ってきていない。だから、棲み分けがキチンとできる。

 この50万円と言う設定辺りでのスペックをアメリカ製と日本製を比べたら明らかな違いがある。それは装飾だ。日本製だとこのくらいの価格になると、いくら材料の厳選と長期の熟成の期間を考慮したとしても、できる品質に限界がある以上、あとは装飾の威力に頼るらざるを得ない。ギターの角という角には、メキシコ貝を埋め尽くすのだ。こんな考え方どうかとも思うが、ギターを買う側でもその購入の判断基準は千差万別、音、弾き心地はもちろんだが、それよりも見た目の豪華さの方が判りやすい・・・と言う人は大勢いる。以前ラルビーのエッセイにも書いたが、楽器は “目にも耳にも等しく美しく” あるべきなのだ。と、まあこんな具合にギターのラインナップは決めてある。

 そこでこの冒頭のキャットフィッシュおじさんだけど、この写真は京都のライブハウス「磔磔」のステージをバックに撮ったものである。この人、日本ではあまり知られていないと思うが、母国では“American folk blues hero”と呼ばれ、アメリカのブルース音楽シーンの大黒柱と言われている。

 デトロイトで育った彼は早い時期にブルースに目覚め、70年代の前半はボニーレイトやリトルフィートのオープニングアクトをレギュラーで務めていたようだ。その後80年代に入り、麻薬でガタガタになって解散したリトルフィートの元メンバー(Paul Barrere)と供に、The Bluesbustersを結成している。このリトルフィート周辺では、リンダロンシュタットやジャクソンブラウン、ジェームステイラーなどの交友関係が様々に入り乱れていたようで、そういった人たちとの関連で彼が我々のブランドのギターと繋がって来たことは容易に想像できる。

 自分の事を“ナマズ”と呼んでいるのも理解しがたい気がするが、ごく初期の活動時から“Catfish”は使っているようだ。ミシシッピ川のデルタ地帯にはナマズが多く生息しているとか、まさにブルースの世界では馴染みの深い魚なんだろう。

 本人もなまずのイメージにぴったりに、パワフルで、気立てのいい人だった。